経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

Dr. Mireya Solís
Director, Center for East Asia Policy Studies, The Brookings Institution

Download this publication (PDF)

Publications 経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

Download 経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

※本稿は、2022115日と6日に米国メリーランド州アナポリスで開催されたNEXTアライアンス会議のワークショップで筆者が行った発表に基づくものである。

はじめに        

技術力を向上させ、過度な依存やサプライチェーン崩壊のリスクに備えることを目的とした経済安全保障政策が台頭している。アジアと欧州の各国政府は、地政学的対立が続く中で経済的相互依存のメリットを最大限活かし、デメリットを最小限に抑えるため、新しい対外経済政策のツールキットを開発している。本稿では、米国と日本が経済安全保障の枠組みを導入しつつある要因とその変化が与えうる影響を取り上げる。また、技術革新を活用し、貿易と技術に関するルールを成文化し、中国がもたらす課題に取り組むという意味で、日米の目的が合致していることを強調する。さらに、日米の政策立案・実施に不足している点(経済的関与と経済的ヘッジのバランス、オンショアリングとフレンドショアリングのインセンティブの調整、中国の技術開発を遅らせるための輸出規制の再活用)も指摘する。新たに設置された日米の経済版「2+2」(経済政策協議委員会)は、これらの分野での協調を優先すべきである。

米国の国政術の原則である経済安全保障

米国の外交および国内経済政策が現在大きく見直されている。トランプ政権とバイデン政権は全体的なアプローチと戦術が異なるにもかかわらず、今や共和党と民主党のどちらの政権においても、「経済安全保障は国家安全保障」というモットーが戦略を形成している。米国の国政術の原則となっているこの考えは、トランプ大統領が大国間競争の概念を全面的に取り入れ、力による平和の実現を約束した2017年の国家安全保障戦略(NSS)で初めて登場した[1]。バイデン政権が中国との競争と米国の中産階級の拡大の双方を約束した2021年の国家安全保障戦略暫定指針でも言及された[2]。最近発表された2022年の国家安全保障戦略では、「経済安全保障」という言葉こそ使われていないものの、独裁国家との競争がもたらす課題の特定、技術的に発展している同盟民主主義国との協力の呼びかけ、イノベーションに基づく先進経済を維持し貿易と技術に関するルールを形成するための主要優先事項の列挙において、その影響は広範囲にわたっている[3]

米国の外交政策において、経済と安全保障を融合させるに至った主な要因は、中国との戦略的競争の深化である。両国間の経済的摩擦は長年続いている。中国からの安価な輸入品が米国の工場における雇用を減らし、欧米に追いつくために中国が知的財産を盗んでいることはよく知られている。しかし、これまで経済改革を謳ってきた中国の姿勢が変わり、中国共産党指導部が軍民融合を進め、中国が軍を近代化させ経済力を増強するだけの技術力と野心があることに気付いた米国は、より深く状況を危惧するようになった。

国際体制における大国間競争の復活は、米国とソ連が対立し、世界を二つの陣営に分断した冷戦時代とは大きく異なる。主な違いは二つある。一つは、数十年にわたる米中経済統合の後、米中関係が急激かつ急速に悪化したこと、そして中国が世界のサプライチェーンのハブとなったことである。現代の米中関係を理解するためには、深い経済的相互依存の中でライバルとの関係を管理することの難しさを考えることが不可欠だ。これに関連して、米国の同盟国やパートナー国、そしてこの地域におけるほとんどの機関は、中国との経済交流を強化する一方で、安全保障という意味では米国に依存し続けている(米国による直接的な防衛のコミットメント、あるいは地域の安定と航行の自由に向けた米国の貢献を通じて)。このように、安全保障については米国、経済成長については中国に依存するという比較的な温和な状況にあったこの地域において、緊張感が高まってきている[4]

第二の違いは、多次元的な米中間の競争の中で、経済的な目標や手段が中心にある点だ。どちらの国が最も高度な技術大国として台頭し、そうすることで高度な製造業において戦略的に不可欠な存在となり、貿易と技術のルールを形成できるか、という競争が行われている。こうした取り組みには経済的手段が不可欠であり、大きく二つのカテゴリーに分けられる。経済の促進という意味では、産業政策、技術革新と研究への投資、技術標準の普及のための調整が重要な役割を果たす。経済の保護という意味では、重要な技術やインフラを保護し、サプライチェーンの強靭性を高めるための防御的なツールキットが開発されている。言い換えれば、米中戦略競争時代は、グローバル化や技術革命がもたらす機会と課題に敏感に反応する、経済的な国政術(外交政策目標を達成するために経済的手段を用いること)の再生をもたらしたのだ。

その結果、現在、貿易・投資・技術の流れが国家安全保障に与える影響を重視する「国際経済関係の安全保障化」が進み、サプライチェーンにおけるチョークポイントの管理や輸入制裁による国の処罰など、経済的相互依存の武器化が進行しているのである[5]。米国と中国は2018年に貿易戦争に乗り出し、関税と対抗関税を急速にエスカレートさせた。今もそれらは残り、米中貿易のかなりの割合がその対象となっている。だが最も戦いの激しい分野は技術である。プラットフォーム技術やフォースマルチプライヤーと呼ばれる、人工知能(AI)、スーパーコンピューティング、バイオテクノロジー、マイクロエレクトロニクス(特に集積回路)の急速な発展は、ライバルに打ち勝ち、経済安全保障の新しいツールを利用して脆弱性を修正するための強い原動力となっている。

米国は、行政規制、立法措置、外交を通じて、輸出規制、外国直接投資(FDI)の審査、サプライチェーンの強靭性、産業政策など、経済安全保障の二つの論理(促進と保護)に基づく新しい取り組みを宣言し、実施し始めている。すべてを網羅するわけではないが、最も重要な措置は以下のものを含む。

  1. FDI審査の厳格化

2018年の外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)により、米国は対内直接投資の国家安全保障審査を拡大した。対米外国投資委員会(CFIUS)は、重要技術、重要インフラ、個人データに関わる分野の非支配投資を審査することになった。2022年秋には、バイデン政権下のホワイトハウスが、国家安全保障上のリスク評価に関する具体的な指針を初めてCFIUSに示した。同政権は、重要なサプライチェーンにおける米国の技術的リード、サイバーセキュリティ、強靭性に対し、外国からの対内直接投資の事業が与える影響を考慮するよう、CFIUSに促した。また、個々の取引の影響だけでなく、国家安全保障上のリスクをもたらす可能性のある業界の投資動向も考慮するよう、CFIUSに指示したことも斬新であった[6]

  1. 輸出管理の改革

2018年の輸出管理改革法は、デュアルユース製品のライセンス要件に新興技術や基盤技術も含めたという意味で、米国の輸出管理政策に重要な変化が起きたことを示した[7]。中国共産党の政治的支配を受ける中国のテクノロジー企業がもたらす国家安全保障上のリスクに対処するため、エンティティリストが活用されることになったのも、さらなる変化であった。企業に対するそうした懸念から、トランプ政権は、2019年5月にファーウェイ社をエンティティリストに入れた。この規制措置に伴い、ファーウェイにマイクロチップや機器を販売する米国企業は、そのためのライセンスを取得することが義務づけられた。2020年5月に米国商務省は、外国直接製品(FDP)ルールをこれまでにない形で適用し、米国のソフトウェアや機器を利用する外国企業も新たに米国の輸出規制の対象とした[8]。その目的は、ファーウェイのチップへのアクセスを可能にしていた抜け穴を塞ぐことと、技術的な制限によって米国企業だけが不利益を被ることがないようにすることの両方であった。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、米国は欧州やアジアの同盟国とこれまで以上に連携し、ロシアへの技術製品の供給削減を含む、前例のない経済制裁パッケージを取りまとめた。この取り組みは、複数の国の目的が一致し、制裁パッケージが広範にわたり大きな影響力を持つことで注目された。さらに、多国間輸出規制が高い効果を実証し、参加政府がコンプライアンス確保の負担を分担することもあって、こうした規制が正当な手段としてより高く評価されるようになった点も重要だ[9]

2022年10月7日に商務省の産業安全保障局(BIS)は、AIやスーパーコンピューティング向けの大容量チップの中国への供給を抑制する、複雑な輸出管理規則を発表した(その一方で、メーカーのSKとTSMCには中国での操業について1年間の猶予を与えた)。この一連の規制は、14ナノメートル以下のロジックチップ製造用のソフトウェアや機器の販売も制限し、規制対象分野における中国の製造活動を支援するアメリカ人にも制限を適用する[10]。米国政府は再び FDPルール を発動し、中国における高度な情報処理活動やエンティティリストに含まれる企業に関わる取引で米国のソフトウェアや機器を使用する企業には、その原産国にかかわらず遵守を義務付けた[11]。これらの規則は、特定の種類の半導体を対象としているが、その影響は広範囲に及ぶだろう。一つには、米国が中国の軍民融合を念頭に置き、今後も重要な新興技術へのアクセスを制限するだろうことを示している[12]。また、今後米国が中国との技術競争の領域を一方的に定めることになるか、それとも同盟国から合意を得て共通の輸出管理のアプローチを設定することになるか、という疑問点も提起している。

  1. サプライチェーンの強靭性と産業政策

バイデン政権は、半導体、大容量バッテリー、医薬品、重要鉱物のサプライチェーンの見直しを行い、2021年半ばに報告書を発表した。潜在的な脆弱性を特定し、是正策を提示することが目的であった。例えば、半導体については、米国に最先端のチップ製造拠点がなく、高度なチップ製造拠点が北東アジアに集中しすぎていることを忠告した。この状況を改善するため、同報告書は、サプライチェーンの強靭性を高めるフレンドショアリングの利点を強調し、研究開発、投資奨励、人材育成への大規模な国内投資を促進すべきだとした[13]

長い立法戦の末、米国議会は2022年夏にようやく「CHIPS[14]および科学法」を成立させた。この2800億ドルの資金調達法案は、米国の技術競争力と中国の課題に対応するための施策を推進することを目的としている。主な内容として、商業技術を育成するために全米科学財団に技術局を設置することや、米国でのチップ製造を促進するために520億ドルを割り当てることなどが挙げられる。ただし、こういった資金を受け取る者には、中国など米国が懸念している国での事業を大幅に拡大することはできないという制限がかかる。

  1. 経済安全保障措置をめぐる同盟国との協調

バイデン政権では、経済安全保障措置をめぐる同盟国との協調が重要な優先事項となっている。そのうち最も重要な取り組みは、EU との貿易技術協議会やクアッド(日米印豪)での新興技術作業部会の立ち上げ、日本との競争力・強靱性(コア)パートナーシップと経済版「2+2」の実施、韓国とのサプライチェーンの強靭性とデュアルユース輸出規制に関する共同イニシアティブの設立などである[15]。東アジアサミットの傍ら、米国、日本、韓国は、より広範なインド太平洋の三国間パートナーシップの一環として、経済安全保障対話を発足させた[16]。世界をまたぐサプライチェーンが複雑化し、高度な製造業や国際的な基準設定において国々がリソースを互いに共有する必要があることを考えると、ミニラテラルな協調が不可欠である。同時に、経済安全保障外交は、これまで異なるパートナーとの間で個別に進められてきており、縦割り行政、重複した取り組み、そして最終的には一貫性のないルールの策定につながる可能性がある。

日本の経済的国政術における変化:総合安全保障から経済安全保障へ

日本は、特に地政学的な変化が多い時期において、他国に経済的に依存することの危険性をよく知っている。資源の乏しい日本にとって、国民の需要を満たし、経済の工業化を推進するための食糧、エネルギー、鉱物の安定供給を確保することは、長年大きな優先事項であった。原油価格の高騰やニクソンショックなど、激動の1970年代が終わろうとする時期に大平正芳内閣が発表した「総合安全保障戦略」が、経済の脆弱性への対処を強調したのはそのためである。その後の10年間も多くのことが起きた。中国では鄧小平の改革開放政策が進められ、1980年代半ばには日本の製造業の国際化が一気に進んだ。急激な円高に対応するため、日本企業は海外投資を相次いで行い、各地域における生産網を構築した。また、サプライチェーンがより複雑になる中、安価な労働力を持つ中国がその中心として台頭していった。

サプライチェーン貿易の統合により、商品と部品の流れが双方向になり、相互に有益な経済機会を創出した。日本では(米国とは異なり)中国との競争によって工場の雇用が減少しているという議論はなく、グローバリゼーションへの反発は免れた。しかし、貿易と投資の統合は新たな依存関係を生み出し、中国政府は領土問題で領有権の主張を拡大させる上でそれを利用した。2010年に日本政府は、尖閣諸島周辺海域で海上保安庁の船に衝突した中国漁船の船長を逮捕した。中国は、日本の製造業にとって重要なレアアースの輸出を非公式に禁輸するなど、圧力作戦を展開した。この顛末は、日本が中国による新たな課題に直面し始めたことを示した。すなわち、グレーゾーン戦術を用い、政治的利益のために経済交流も利用することを厭わない、能力が向上した軍事大国にいかに対処するかということである。

中国による、こうした早期の経済的威圧に対し、日本は、3つの側面で対応した。1)民間企業の合理化やリサイクルによる需要削減、2)レアアースの代替資源の模索による多様化、3)世界貿易機関(WTO)を通じた法的な対抗(これは日本にとって好ましい結果となった)である[17]。輸出禁止への対応を中心に据え、多様な政策領域を織り込んだ経済安全保障戦略の本格的な策定には至らなかった。そのような形で発展したのは後のことである。日本の経済的国政術は2010年代に本格化したが、貿易協定の締結や持続可能なインフラファイナンスの供給国として成功したことで、他国との連結に大きく力を入れることになった。中国との競争も要因ではあったが、日中のどちらがアジア地域の国々をより密接に結びつけることができるかという点に着目していた。

ドナルド・トランプの大統領就任と中国における習近平の権力強化により、大国間競争が激化したことが、日本政府の経済安全保障への転換に拍車をかけた。習近平政権の下での中国の方向性に対する懸念は、10年間で強まる一方であった。中国政府は、2012年末に日本政府が尖閣諸島を個人所有者から購入したことを機に、日本による行政管理に対抗するために近海に頻繁に侵入し、現状変更を試みた。中国が最先端の技術分野における自給自足を好み、国家資本主義を強化させていたことから、経済の補完性と公平性が損なわれる恐れがあった。また、外交政策上の争いを理由に、中国政府が経済的威圧を行使して地域諸国を罰することが増え、中国への経済的依存の危険性を如実に示していた。日本の繁栄の鍵である広範な貿易関係を損なうことなく、これまでより自己主張の強い中国の安全保障と経済のリスクをどのようにヘッジするかは、日本の戦略立案者にとって最も重要な問題である。

米国がトランプ大統領の下で貿易政策や中国との関わりを再考したことを受け、日本は対外経済政策を大きく変えた。一方では、米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱、同盟国に対する「国家安全保障」関税の乱用、米中貿易戦争によって、保護主義や米国の一国主義の台頭に対する懸念が強まった。他方、日本政府は、中国に対する米国の見方(手段はともかくとして)がより懐疑的になったことを歓迎し、日本もまた中国による知的財産の盗難、重要技術の漏洩、中国の通信大手がもたらすサイバーセキュリティおよび情報セキュリティのリスクを懸念していることを示した。2018年末に日本政府は、国家安全保障上のリスクがあると判断された政府機関での通信機器の使用を禁止した。また、2019年には、国家安全保障を目的としたFDIの審査を強化する改革を行った。2020年には、日本の国家安全保障局、外務省、経済産業省に経済安全保障部門が追加された。同年、政府と自民党は、日本の経済安全保障政策の指針となる二つの重要な概念、すなわち戦略的自律性(過剰依存の是正)と戦略的不可欠性(先端産業における他国の日本への依存度の向上)を文書で提示した[18]。 2022年春には、国会は4つの主要分野(サプライチェーンの強靭性、重要インフラの保護、研究・イノベーションの推進、特許出願の非公開)に焦点を当てた「経済安全保障推進法」を可決した。過去5年間に日本は、経済安全保障のツールキットを体系的に整備し始め、目覚ましいスピードで政策転換を行ってきた。

経済安全保障をめぐる同盟国の協力:今後の機会と課題

開かれ、強靭で、繁栄するインド太平洋を維持するため、バイデン政権は同盟国や同志国との協力を重視してきた。日本は、緊密な同盟国、民主主義国、そして技術的に進んだ経済国として、その取り組みにおける重要なパートナーである。日米両国は個別に、そして連携して、サイバーセキュリティ、投資審査、サプライチェーンの強靭性、輸出規制、半導体製造の促進など、新たな政策を追求してきた。しかし、優先事項、能力、望ましい政策手段に関して、日米間にはいくつかの重要なギャップが存在する。これらの分野に取り組むことは、二国間関係における経済安全保障の役割に大きく影響を与え、中国との関係や将来の経済秩序を再形成することになる。特に、以下の3つの領域は、さらなる議論に値する。

  1. 経済的国政術と中国という課題

対外経済政策における、経済的連結性の追求と経済安全保障の追求のバランスについては、日米両国で大きな相違がある。米国は経済安全保障のツールキットを強化するために迅速に行動しているが、アジアにおける経済関与政策は依然として不十分である。関税や技術制限をめぐる米国の一方的な行動は、日本や他の同盟国にとって心配の種となっている。野心的な貿易自由化に対する米国の関心の低さも懸念されており、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)に米国が復帰するという期待も満たされていない。米国のインド太平洋経済枠組み(IPEF)は交渉が始まったばかりだ。しかし、バイデン大統領によるこの取り組みが、市場アクセスの優遇措置なしに参加国に実質的な利益を生み出し、効果的な執行メカニズムなしに最先端のルールを普及させることができるのか、疑念が残る。議会の批准を必要としない枠組みが維持できるのかも疑問視されている。上記の理由から、IPEFが地域パートナーとの強固で長期的な経済関係を提供し、中国の貿易外交に対抗する有効な事業となる可能性は低いかもしれない。

これに対し、日本の経済安全保障政策は、経済的関与(貿易交渉、デジタル経済の基準、インフラファイナンス)を大きく推進した後に実施されてきたものである。これには、数年前のTPPの救済、そして加盟申請国の増加に伴う、現在のCPTPPの拡大が含まれる。米国はTPPから離脱したため、中国の加盟をめぐる議決権を有しない。中国のCPTPP加盟申請という難しい問題にどう対応するかは、日本や他の加盟国次第である。

対中政策全般については、バイデン政権下の米国は、民主主義国と独裁主義国のパフォーマンスを競う形で、包括的な競争を行う構えを見せている。日本の対中政策は、依然として選択的競争と選択的協調の傾向にある[19]。地域貿易外交においては、このような違いが顕著になる。米国のIPEFは中国の参加を想定していないが、日本は中国が参加する世界最大の貿易協定である地域的な包括的経済連携(RCEP)に参加している。

最後に、中国との貿易関係の性質にも違いがある。日本は中国への依存度(相対的な輸出入シェア)が高く、サプライチェーン貿易がより大きな役割を担っている。中国とのデカップリングが部分的または広範囲になされた場合、不均等な影響が出る可能性が高い。例えば、ゴエスとベッカーズ(Góes & Bekkers)による最近のシミュレーションでは、米国よりも日本の方が、2つのブロックができたことによる福祉の損失(2040年までの実質GDPの減少)が急であると推定している[20]

  1. サプライチェーンの強靭性と高度な製造業をめぐる競争

重要製品をめぐる中国への過度な依存を懸念している米国と日本は、サプライチェーンの強靭性を高めるための早期発見システムに関心を持っている。両国は、国内の半導体製造を増やすことを目指し、海外の製造者(日本ではTSMC、米国ではTSMCとサムスン)を誘致するための産業補助金を準備している。フレンドショアリングは日米のどちらにとっても魅力的なのである。

しかし、オンショアリングを多分に含む米国のサプライチェーン政策は、パートナーの国々との摩擦を生んでいる。例えば、バイデン政権は、サプライチェーンの見直しを行った後、「バイ・アメリカ」条項を強化した。また、インフレ抑制法(IRA)による電気自動車(EV)の税額控除は、米国と欧州やアジアの同盟国との間で大きな争点になっている[21]。最大7500ドルの税額控除を受けるEVは、北米で組み立てられ、バッテリーに使用する重要鉱物の40%が2024年までに米国または米国の自由貿易協定のパートナーで調達されなければならない、とその法案は義務付けている。また、産業政策の復活が異なる市場経済の間で緊張を生む危険性も極めて高い。中国と欧米だけでなく、友好国もまた、半導体のサプライチェーンに含まれる企業に投資優遇措置を提供する上で互いに競い合っている。補助金をめぐる戦争を回避することが大きな関心事となっているのである[22]

  1. 中国との技術競争と輸出規制の今後

最近のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官の発言や、10月7日のAIやスーパーコンピューティング用の大容量チップを対象とした幅広い輸出規制の採択は、米中間の技術競争が新たな時代を迎えたことを示している。米国にとっては、もはや中国に対して相対的な優位性を保つだけでは不十分であり、絶対的に優位に立つことが新たな目標であるようだ[23]。この重要な変化の背景には、中国の軍民融合により、重要技術の管理が国家安全保障上の優先事項になったという米国の考えがある。米国の輸出規制の変化を受け、中国の重要分野での技術開発を阻止することで中国と競争することに対し、米国の同盟国やパートナーも賛成しているのか、という疑問が生じるようになった。数ヶ月にわたって同盟国と協議が行われたとはいえ、10月7日の輸出規制は、治外法権の規定が付いた一方的な決断である。そのため、米国は、同盟国、特に半導体製造装置においてリードしているオランダと日本の賛同を得ることに大きく力を入れている[24]。筆者が本稿を書いている時点では、米国によるこの外交キャンペーンがどのような結果となったかがまだ不明である。ワッセナー・アレンジメントのような多国間協定の限界を踏まえると、日本と米国がどのように輸出管理政策を構想・改革しているかを理解することは、将来の多国間輸出管理体制に関する議論に極めて重要である。

ミレヤ・ソリ-ス博士は個人的な立場で本稿を執筆した。その見解および解釈は、あくまでも筆者個人のものである。

日米NEXT同盟イニシアティブは、日米間で外交・安全保障・技術政策分野を横断する新たな協力関係を構築するため、幅広い分野の政策・技術専門家(政府内外)を招待し、二国間対話、ネットワーキング、共同提言の策定を行うフォーラムです。日本財団の支援を受けて米国笹川平和財団が設立した本プログラムの目的は、日米共通の利益により大きく貢献し、ますます複雑でダイナミックになる地政学的環境における新たな課題に備えられるよう、日米同盟を強化することです。2021年に設立された本イニシアチブは、重複する課題も多い2つのトピック(1) 外交・安全保障政策、2) 技術とイノベーションの連結)に取り組んでいます。米国笹川平和財団のシニアディレクターであるジェームズ・ショフが本イニシアティブを主導しています。

[1] White House, National Security Strategy of the United States (Washington, DC: White House, December 2017), https://trumpwhitehouse.archives.gov/wp-content/uploads/2017/12/NSS-Final-12-18-2017-0905.pdf.

[2] White House, Interim National Security Strategic Guidance (Washington, DC: White House, March 2021) https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2021/03/NSC-1v2.pdf.

[3] White House, National Security Strategy (Washington, DC: White House, October 2022), https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/10/Biden-Harris-Administrations-National-Security-Strategy-10.2022.pdf.

[4]この背景には、米国の外交政策を急激に変動させる米国政治の二極化、ゼロコロナ政策や共同富裕政策による中国経済の著しい減速と海外投資家にとっての不確実性の増大など、複数の要因が働いている。

[5] アジアにおける経済安全保障政策の推進要因とその影響についてのより詳細な議論は、筆者の近刊『Japan’s Quiet Leadership: Reshaping the Indo-Pacific』 (Brookings Institution Press) で取り上げている。

[6] White House, “FACT SHEET: President Biden Signs Executive Order to Ensure Robust Reviews of Evolving National Security Risks by the Committee on Foreign Investment in the United States,” September 15, 2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/09/15/fact-sheet-president-biden-signs-executive-order-to-ensure-robust-reviews-of-evolving-national-security-risks-by-the-committee-on-foreign-investment-in-the-united-states/#:~:text=The%20Order%20explicitly%20recognizes%20that,now%20and%20in%20the%20future.

[7] Ian F. Ferguson, Paul K. Kerr, & Christopher A. Casey, The U.S. Export Control System and the

Export Control Reform Act of 2018, CRS Report No. R46814 (Washington, DC: Congressional Research Service, June 7, 2021), https://www.everycrsreport.com/files/2021-06-07_R46814_4ada880cd0a8b2b2822d942b4114828c13908820.pdf.

[8] Douglas B. Fuller, “Weaponizing Interdependence and Global Value Chains: U.S. Exports Controls on Huawei,” (paper presented at American Political Science Association Annual Meeting, Montreal, September 15, 2022).

[9] Martin Chorzempa, “New technology restrictions against Russia could also target China,” Peterson Institute for International Economics, March 7, 2022, https://www.piie.com/blogs/realtime-economic-issues-watch/new-technology-restrictions-against-russia-could-also-target.

[10] Matthew Reynolds, “Assessing the new semiconductor export controls,” Center for Strategic and International Studies, November 3, 2022, https://www.csis.org/analysis/assessing-new-semiconductor-export-controls.

[11] Chad P. Brown & Kevin Wolf, “National security, semiconductors, and the US move to cut off China,” Peterson Institute for International Economics, November 22, 2022, https://www.piie.com/blogs/realtime-economics/national-security-semiconductors-and-us-move-cut-china.

[12] Gregory C. Allen, “Choking off China’s access to the future of AI,” (Washington, DC: Center for Strategic and International Studies, October 11, 2022), https://www.csis.org/analysis/choking-chinas-access-future-ai.

[13] White House, Building resilient supply chains, revitalizing American manufacturing, and fostering broad-based growth, 100-day reviews under E.O. 14017, (Washington, DC: White House, June 2021), https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2021/06/100-day-supply-chain-review-report.pdf?utm_source=sfmc%E2%80%8B&utm_medium=email%E2%80%8B&utm_campaign=20210610_Global_Manufacturing_Economic_Update_June_Members.

[14] 「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors」の頭字語。

[15] “U.S.-Korea launch dual-use export controls working group,” Inside U.S. Trade, November 9, 2022.

[16] White House, “Phnom Peng Statement on US-Japan-Republic of Korea Trilateral Partnership fo the Indo-Pacific,” November 13, 2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/11/13/phnom-penh-statement-on-trilateral-partnership-for-the-indo-pacific/.

[17] Mireya Solís, “The Big Squeeze: Japanese Supply Chains in the Era of Great Power Competition,” (Washington, DC: Korea Economic Institute of America, July 30, 2021), https://keia.org/publication/the-big-squeeze-japanese-supply-chains-and-great-power-competition/.

[18] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2020 について ~危機の克服、そして新しい未来へ~」2020年7月17日(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf)。

[19] Mireya Solís, “The underappreciated power: Japan after Abe,” Foreign Affairs, November/December 2020, https://www.foreignaffairs.com/articles/japan/2020-10-13/underappreciated-power.

[20] Carlos Góes & Eddy Bekkers, The impact of geopolitical conflicts on trade, growth, and innovation, Staff Working Paper No. ERSD-2022-09 (Geneva: World Trade Organization, Economic Research and Statistics Division, July 4, 2022), 28, https://www.wto.org/english/res_e/reser_e/ersd202209_e.pdf.

[21] “Electric vehicle tax credit dispute could affect IPEF talks,” Inside U.S. Trade, November 9, 2022.

[22] Mireya Solís, “Toward a U.S.-Japan digital alliance,” Shaping the Pragmatic and Effective Strategy toward China Project: Working Paper No. 1, (Tokyo: Sasakawa Peace Foundation, October 2021), https://www.spf.org/iina/en/articles/mireya-solis_01.html.

[23] White House, “Remarks by National Security Advisor Jake Sullivan at the Special Competitive Studies Project Global Emerging Technologies Summit,” September 16,2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/09/16/remarks-by-national-security-advisor-jake-sullivan-at-the-special-competitive-studies-project-global-emerging-technologies-summit/.

[24] Demetri Sevastopulo & Kana Inagaki, “US tries to enlist allies in assault on China’s chip industry,” Financial Times, November 13, 2022, https://www.ft.com/content/4a060f86-db19-474b-945b-313951f7a499.

Download 経済安全保障:日米同盟の 追い風となるか向かい風となるか

2024 Sasakawa USA | Privacy Policy | Sitemap

Custom WordPress Design, Development & Digital Marketing by time4design